鳥の声を覚えよう
鳥の声に耳を慣らそう
鳥を見はじめて間もない人の耳が鳥の声をきちんととらえるためには、はじめはそれなりに意識しなければならないでしょう。人間の耳は機能的に優れており、雑音を自動で除去して、選択的に音を拾ってしまいます。 ビデオカメラなどで録画した映像を再生したときに、音がやたらうるさく聞こえるのは、マイクは音の選択性(指向性)がないためです。なので、自分の耳の状態を鳥の声に反応させるためには、はじめのうちは少しトレーニングが必要です。
例えば、野鳥観察に出かけたとき、スタートする前の1分間、目を閉じて耳を澄ませてみましょう。種類は問わず、鳥の声が聞こえた回数を数えたり、どの方向から聞こえてきたかを記録したりしてみてはいかがでしょう。また、仲間がいるときはどんな音が聞こえたかを話し合うと、自分の聞き取れている声と聞き取れていない声がはっきりして弱点克服につながり、ステップアップもきっと速いでしょう。はじめのうちは、自転車のブレーキ音や子どもの声などにも惑わされますが、徐々に鳥の声を選択的に聞きとれるようになるでしょう。
身近な鳥の声の表記に注目
鳥の声が聞こえてくるようになったら、図鑑を広げて、鳥の声をどのように表現しているかを調べてみましょう。 図鑑に載っている鳥の声のカタカナ表記にも、執筆者のくせのようなものがあります。まずは自分がよく知っている鳥の声を、どのように表現しているかをみてみましょう。図鑑を見る前に、自分でカタカナ表記をして比べてみると、その差がわかります。
母音表記の部分に注目
次に、図鑑にカタカナ表記されている声の母音部分に注目してみましょう。
1.イ、エ(イ、エ段の全音を含む)の音は、尻上がり、あるいは高音になる場合に用いられる。特にイ段の音が二度続くときは、後ろの音が前の音よりも上がる傾向にある。
2.ウ、オ(ウ、オ段の全音を含む)の音は、尻下がり、あるいは低音になる場合に用いられる。イ段の音と違い、同じ段の声が続いても抑揚はなく、平坦な音の連続となる。
このような部分に注目して、次の鳥の声の図鑑表記を見てみましょう。(文一総合出版、『日本の野鳥550 山野の鳥』より)
1.ヒヨドリ
(ピーヨ、ピーヨ、ピーヒャラ、ピヨピヨピヨ、ヒーヒー)
いろいろあってややこしいが、基本的に「ヨ」で音が下がり、「ヒー」の部分で意識的に音を上げて発音をすると実際の声に近くなる。
2.セグロセキレイ
(チチージョイジュイ)
これは、「チチー」の後の「チー」が少し前の「チ」よりも高い音で、「ジョイ」は一度「ョ」で音を下げ、また「イ」ではっきりと上げるとよい。
最初のうちは難しいかもしれませんが、ただのカタカナ表記だったものが抑揚がつき、少しずつ鳥の声らしく発音できるようになってくるはずです。
図鑑に書き込もう!
このようなことをくり返すと、カタカナ表記を見ただけでも、おおよその声の雰囲気をつかめるようになってきます。また、それを野外で瞬時に生かすために、図鑑のカタカナ表記にいろいろ書き込んでみるとよいでしょう。
例えば、音が上がる部分には黄色、下がる部分には青色などを塗ってみたり、一番はっきりと聞き取れる音の部分にアクセント記号(英語の辞書などについている強く発音するところのマーク)を付けたり、蛍光ペンなどで印をつけたりすると、声の抑揚を思い出しやすくなり、図鑑がもっと便利になります。
基本フレーズを覚えよう
1種類の鳥のさえずりでもいろいろなバリエーションをもつことがあります。そうなると一つ一つを覚えなくてはいけないように思ってしまい、ハードルが高くみえてきます。
しかし、オオルリの場合、歌いはじめの声はさまざまな鳴き方をするものの、最後に必ずジジジュイなどと濁った声を出すので、そのフレーズをしっかり聞き取れれば簡単です。また、コルリの声では、前奏は「ツン、ツン、ツン、ツン…」と少しずつ速くなっていき、ややか細い感じの声が入る部分を聞き逃さないようにすれば、「チチョチョチョチョ」や「チィーチュルチュルチィー」など、後にどんな鳴き方をされても自信をもって聞き分けられることになります。
クロツグミなどは、自分のさえずりに、ほかの鳥の声を真似て入れることがあり、なかなか難しいのですが、基本の「キョコ、キョコ、キョコ」というリズムある声をどこかに入れることがほとんどですので、そのフレーズがあるかどうかに気をつけているとよいでしょう。
聞きなしをつくってみよう
鳥の声を人の言葉に置き換えることを「聞きなし」といいます。鳥の図鑑にはいろいろなものが載っており、ホトトギスの「特許許可局」や、センダイムシクイの「焼酎一杯グイー」などは有名です。でも、聞きなしを自分でつくってみるのも楽しいものです。本人は完全に忘れていましたが、BIRDER編集部員の子どものころのフィールドノートには、こんなホオジロの自作「聞きなし」が書いてありました。「ちょっぴり小遣いあげてほしい」「びっくりしたのはお芋さん」など、かなりの駄作の連続でしたが、当時はそのように聞こえていたようです。また、当時の学校の友達にも聞かせていたようで、友人作として「まったくできない期末試験」というのもありました。ホオジロのほか、イカルのように、メリハリのある音程の変化をもつ声が、「聞きなし」をつくりやすいようです。
鳥の鳴き声の音声を聞いてみよう
鳥の声を、いつでもどこでも聞きながら覚えたいという人には、鳥の鳴き声の音声を聞くことをおすすめします。鳥の鳴き声はYouTubeやWebサイト、CDなどで聞くことができます。朝起きたとき10種分、あるいは寝る10分前に5種類ずつなど、鳥の鳴き声の音声を聞いてみましょう。こうして、普段からさまざまな声を聞いておくことで、思いもよらない野鳥との出会いでも落ち着いて識別することができるようになるでしょう。
映像といっしょに覚えてみよう
声だけではいまいち覚えにくいという人は、YouTubeや市販されているDVDなどでなるべくたくさんの種類の鳥が出てくるものを見て、映像と声を同時に覚えるとよいでしょう。鳥の動き(鳴くときに大きく口を開けるか、小さく開けるかなど)もいっしょに楽しみながら覚えていきましょう。 また、ときには、音声を消した状態で映像を見て、口の動きからさえずりを思い出しましょう。音声と動画の長所をうまく使い分けることで、より楽しく覚えることができます。
観察会で教えてもらおう
「いろいろ試したけれど、やはり難しい」と感じた人は、観察会へ出かけてみましょう。観察会ではなるべくリーダーやベテランの近くに行って、彼らがどんな聞き分け方をしているかをよく見てみましょう。それぞれが、それぞれの方法で、声を探り、聞き分けていく様子がよくわかると思います。その中で、自分に合った方法を見つけ出したり、迷惑にならない程度の量の質問をして、秘訣を教えてもらいましょう。
鳴き声は鳥たちのコミュニケーションということを忘れずに
鳥たちにとって、声は重要なコミュニケーション手段です。鳴き声の音源を野外で再生して鳥を呼ぶ人をときどき見かけることがありますが、これは絶対にしてはいけません。鳴き声の音声を野外で再生することは、野鳥の生態に大きな悪影響を及ぼします。 特に繁殖期は、音声でおびき寄せてしまうと、なわばりの撹乱が起こったり、雛への給餌回数が減ってしまい餓死したりして、子育てがうまくいかなくなります。彼らの生活を尊重した野鳥観察をすることは、最低限のマナーです。いつまでも野外で鳥たちの声を楽しめるよう、みんなでルールを守りましょう。