バードウォッチングを始めてみよう

文・イラスト mililie

“バードウォッチング”と聞くと、山で林道を歩いたり、広大な湿地を探索したり、そんなイメージを持っている人も多いかもしれません。しかし、じつは私たちの身近な環境でも、多くのかわいい鳥たちが暮らしています。皆さんご存じのスズメやツバメ、そしてカラスやハト。でも、それだけではありません。もう少しだけ視野を広げてみると、意外と気づかない鳥たちの世界が広がっているのです。今回は東京都内の我が家から、徒歩圏内で見られるかわいい野鳥たちを、各季節ごとに1種類ずつ紹介します。

春に聞こえる美声

桜の時期も終わり新緑が芽吹きはじめると、公園の木々の間から美しい鳴き声が聞こえてきます。「ピーリー・ポッピリリ・チッチリリーチ」。その鳴き声の主はキビタキです。喉元からお腹にかけてのオレンジ色が目に鮮やか! 英名は、このオレンジ色が植物の“スイセン”の花の色に似ていることから、“Narcissus(スイセン)Flycatcher(ヒタキ)”と名づけられています。こんなに美しい鳥を散歩中に見つけることができるのです。キビタキは、主に山地で子育てを行う夏鳥。春の時期は、渡りの途中で都市公園などにも立ち寄ることがあります。もし姿が見えなかったとしても、こんな美しい鳴き声をご近所で聞くことができるだけでも夢心地です。

涼しげなさえずりが魅力のキビタキ。身近にこんなに美しい野鳥が!

夏の大発見

夏の鳥たちは子育てに大忙し! そんな中、私たちが毎年、興味深く見ているのがバンです。バン?と思われる方もいるかもしれませんが、カモに似ていて、川や池のまわりを歩きまわっている身近な鳥です。体は小さくて黒く、顔と嘴が真っ赤で、嘴の先が黄色いのがポイント。このバンは少し変わった子育てをすることで知られており、なんと、その年に生まれた幼鳥が、後に生まれてきた兄弟の世話をするのです。幼鳥は親鳥と比べると羽の色が茶褐色で、ひと目で見分けることができます。このことを初めて知ったときはビックリしてしまいました。そんな驚きの発見を、徒歩圏内で味わえるのもバードウォッチングの魅力です。

バン。夏の野鳥たちからは生命の力強さを感じる

秋の小川で輝く鳥

「チュン、チュン」や「カー、カー」など、鳥の鳴き声を耳にする機会は日常的に多くあります。しかし、意識していないと聞こえてこない鳴き声も。近所の小川沿いを散歩していると、「チー」と自転車のブレーキ音のような鳴き声が聞こえてくることがあります。油断すると聞き逃してしまうほどの音量。その鳴き声が聞こえたらよく目を凝らしてみてください。「清流の宝石」と呼ばれることもある、カワセミの姿を見つけることができるはずです。その青く美しい姿はまさに宝石のよう! 運がよければ紅葉の枝に止まる姿を観察できることもあります。「こんな街なかにカワセミが?」と驚く方も多いのですが、都市部でも観察できる鳥なので、鳴き声をお聞き逃しなく!

カワセミ。よく探してみると、川沿いの木の枝や岩の上に止まっていることも

冬は双眼鏡をのぞいてみよう

冬になると、庭先の樹木にかわいらしい鳥がやってくることがあります。「ヒッ ヒッ ヒッ」と鳴き声が聞こえたら、それはジョウビタキの鳴き声かもしれません。オスはお腹の羽がミカンのような暖かいオレンジ色をしていて愛らしく、尾羽をぷるぷる振る様子は身悶えてしまうほど。ここでのポイントは、ぜひ小さい手軽なものでよいので、双眼鏡を使ってのぞいてみてほしいということ。肉眼でもその愛らしさは隠しきれないのですが、双眼鏡で見てみるともう悶絶級のかわいらしさ。街なかでも見つけやすい鳥なので、「ヒッ ヒッ ヒッ」という鳴き声を頼りに探してみてください。木の梢や電線などで見つけることができると思います。

※双眼鏡を街なかで使うときは、トラブルを避けるため人家や人に向けないよう注意しましょう。

双眼鏡をのぞくと、鳥たちの繊細なしぐさや羽衣の美しさに気づかされる

バードウォッチングは、手軽に始めることができる趣味です。特別な準備を何もしなくても、日常の中で少し鳥のことを意識するだけで、季節の感じ方も見え方も変わってきます。そして、「こんな鳥が身近にいたんだ!」「こんなおもしろい行動をするんだ!」といった発見が、日々の暮らしをもっと豊かなものにしてくれるはずです。そして、「もっと鳥を知りたい!」と感じはじめたら、双眼鏡を片手に鳥たちの興味深い世界をのぞいてみてください。大自然の中にわざわざ行かなくても、私たちの知らない世界は、近所の散歩道にたくさん広がっているのです。

著者プロフィール


mililie

「自然と共に人生を豊かに」をコンセプトに情報発信を行う。イラストレーターYUKIと、ギタリストでライターの中嶌真平のふたり組。美麗なイラストと親しみやすい文章が特徴。著書に『ココロさえずる野鳥ノート(小社刊)』や『身近な「鳥」の素顔名鑑(SB クリエイティブ)』などがある。近年では鳥の調査研究も行っている。